この秋、国税の基幹システムが新しくなりました。「KSK2」と呼ばれる次期国税総合管理システムです。報道や専門誌では「AIが調査先を選ぶ」「税務調査がさらに厳しくなる」といった見出しが目立ち、ご相談の場でも「うちは大丈夫でしょうか」と聞かれることが増えました。
今日は、国税の内側で調査に携わってきた立場から、この話を少し落ち着いて整理してみます。
もともと「選んで」調査していた
税務調査は、すべての会社を順番に回るものではありません。申告書の数字、過去の調査の記録、取引先から集めた資料などを見比べて、「ここは確認が必要だ」と判断した先を選んで調査に入ります。私が現場にいた頃も、この選定に多くの時間をかけていました。
国税庁はすでに数年前から、この選定にAIを使い始めています。過去の申告漏れの事例を学ばせ、似た特徴を持つ申告を拾い出すやり方です。所得税・消費税の調査では、追徴税額が過去最高になったと公表されています。
KSK2は、この流れをもう一段進めるものと考えています。税目ごと・署ごとに分かれていたデータを横断して見られるようになれば、「法人税の申告では目立たないが、代表者個人や関連会社まで並べると不自然」といった点も拾いやすくなります。
AIが見ているのは「数字の不自然さ」
AIが得意なのは、同業・同規模の会社と比べたときの「ずれ」を見つけることです。たとえば次のようなものです。
- 売上は伸びているのに、利益率だけが同業より大きく低い
- 特定の科目(外注費・交際費・雑費など)が年によって大きく動いている
- 決算期末の前後で、売上や仕入の計上が偏っている
- 代表者個人の資産の増え方と、会社の役員報酬が見合っていない
ここで強調したいのは、「ずれ」はそれだけで問題ではないということです。設備投資をした年、大口の取引先を失った年、新しい事業を始めた年。数字が動く理由は、経営の現場にいくらでもあります。
準備しておきたいのは「説明できること」
AIの選定が進んでも、最後に会社に来て話を聞き、帳簿と書類を確かめるのは人の調査官です。調査官が知りたいのは「なぜこの数字になったのか」です。
そのため、普段からおすすめしているのは次の3つです。
- 数字が大きく動いた年は、理由をメモで残しておく(取締役会の議事録や社内のメールでも構いません)
- 外注費・交際費など、判断が分かれやすい科目は、相手先と内容がわかる書類をそろえておく
- 会社のお金と代表者個人のお金の線引きを、はっきりさせておく
どれも新しいことではありません。ただ、データでの選定が精密になるほど、「説明の準備ができているかどうか」の差がはっきり出るようになると感じています。
システムが変わっても、税務調査で問われることの中身は大きくは変わりません。不安なことがあれば、調査の通知が来る前の段階でも、気軽にご相談ください。